オープニング

 造主、空乃詩(そらの・うた)は、齢十六にして、既に自身の住む外世界に絶望していた。
 幼い頃から周囲と酷く乖離した価値観を有していたが為に、孤独に苛まれ続けてきた彼女にとって、現実ほどにつまらないものは無かったのだ。
 それ故に彼女は、難病にかかって病院のベッドに伏すようになる前も後も、只管に内世界の創造、或いは想像を続けていた。
 《アズ・リアル》も、彼女に創造された世界の一つでしかない。
 
 気難しい少女である創造主だが、そんな彼女にも、唯一心――内世界への介入――を許す、生涯でたった一人の友人が居る。
 彼女、東岸愛理(とうぎし・あいり)は、創造主を友人として愛してはいるが、それ以上に、彼女が創造する世界を愛していた。
 特に《アズ・リアル》を。
 創造主が入院してからも彼女は、可能な日には病室に訪れ、創造主と共に、其の内世界について語り合った。

 る日、創造主は、自身の余命が幾許もないことを宣告される。
 表向きは平静にしていた彼女だったが、その精神的不安による綻びが、内世界に現れ始めた。
 自身の世界観の混同や失念などによる《アズ・リアル》の法則の崩壊。
 未だ、かの世界は大きく崩れてはいないが、いつか創造主自身の手によって瓦解する其れを、愛理は黙認することが出来なかった。
 
 だから愛理は、自身の愛する、彼女にとっての《アズ・リアル》を守る為に、大きく踏み込んだ。
 《特異》という概念の導入。
 其れは、愛理にとっての、《アズ・リアル》にあるべきではない法則。
 そして彼女は、円滑にかの世界を救うため、その中に自身の分身を創造した。
 ただ、愛理は自覚していたのだ。
 自身がこうして介入することそのものが、彼女の愛したかつての《アズ・リアル》に《特異》を持ち込み、汚す行為なのだと。
 それでも彼女は、世界を壊す力で、世界を救おうとする事を止めはしない。
 


 なたは、自身の住む世界に"外"が存在するという事など知りもせず、また此の世界に《アズ・リアル》という名前が付いている等という事も知る由の無い、普通の人間であり、普通の学生であった。

 そう、突如として現れた、悪意を持つ正体不明の人間から、愛する少女を庇うまでは。
 あなたに状況を理解出来るだけの情報は無い。
 あなたに状況を変えられるだけの力は無い。
 そんな事情に躊躇することなく、其の存在は、何処からか生み出した剣で、あなたを貫く。

 ほんの少しの間は血液が流出するのを感じていたものの、直ぐに意識は深淵に飲み込まれていく。
 それでもあなたは不思議と、諦めることが出来なかった。
 そういう意味で、既にあなたは特別であった。

――こんな所で、訳も解らずに死んで堪るか。

 すると、既に感覚を失った筈のあなたの意識に、"答え"が届いたのであった。

 "あなたに選択肢をあげる。一つは此の侭、《死》という、此の世界において絶対の法則を受け入れ、何も知らずに消滅すること。
 もう一つは、法則に因る束縛から解放され、《死》をも退けること。"

――愚問だ。あいつを護る為ならば、こんな世界の法則(ルール)、幾等でも棄却して遣る。

 "ならば、願いなさい。死を殺すことを。
 其の意志で、世界を超越することを。
 そして、あなたは其の力を憎み、其の力を愛しなさい。
 其の力であなたの世界を壊し、其の力であなたの世界を救いなさい。"
 
 
 

 
 
 

  • 最終更新:2014-08-14 23:06:25

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